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家族。
ぼうっとした頭でその議題についてキスイは考えていた。半分、夢現のままで。
多分、肉親は母上一人だけ。父親は知らない。自身が列強種族ではないことから奉仕種族同士での子供だと思うが、殺されたか母と自分が捨てられたか……いずれにせよ、父親というものは知らない。
7歳の、あの届かなかった手を最後に、母上も逝ってしまわれたけれど。
逃げ延びてぼろぼろの自分達が作った集落では、友人や大人の女性もいたけれど家族ではなかった。
……盟友、と言った方がいいかもしれない。
死も生も互いに隣同士で、死なば諸共。静かな戦場と言うに相応しかったのだと今更になって思う。
集落が解散した後に厄介になった13年上の友人は、新しい家族だと言って旦那さんを紹介してくれた。その旦那さんにキスイは無礼がないように気をつけたし、また友人の家事も積極的に手伝った。
集落にしか拠り所がなく、行く当てもなかった自分にとってはそこは『置いて貰える場所』であり、決して相容れてはならない場所だった。
新婚の夫婦二人が暮らす家で、あくまで自分は部外者でしかない。
だから、一念発起して同盟の冒険者として自立し、自分だけで生きようと思った。
友人夫婦には、冒険者になった時に貰った一般人には贅沢な程の金品や品物を贈り、発つ鳥跡を濁さずの精神で礼の気持ちを贈った。
その時、旦那さんが
『そんなもの要らないから、ずっとここにいてくれ』
と言った時には一瞬ぎょっとしたが、苦笑するに留めてあの家は去った。
先日会った折に、友人から「体質の問題で子供が作れない」と聞いた時には、その時のことを後悔した。でも、やはり残っても……家族には、なれなかったと思う。
冒険者になってからのことは――まぁ、色々あったので割愛するとして。
思えば、家族という関係には縁遠かった気がする。
だから、目を腫らして泣いた日のことも何だか昔のことのような気がするし、薬指の小さな花も妙に現実味がない。
でも、冒険者になってからほとんど全てと言わんばかりに色々なことが変わった。だから多分、また何かが変わっても自分は相変わらずに立っているのだろう。
願わくばそれが、幸せな変化であることを。
と、そこまでぼんやりと考えた時点で汗で頬杖をついていた右手から顎が滑り落ちた。
目の前のテーブルに額をこれでもかと言わんばかりにぶつけ、真っ先に間抜けな姿を誰にも見られていないか確認する。家には、一応一人しかいないのだが。
だが、足元で喉を鳴らして縋る茶トラがいた。
「……見たな」
言葉がわかるのか否かは不明だが、コオウはこちらを見上げにゃあと鳴く。
コオウを抱き上げて膝の上に置くと、眠かったのか丸まってしまった。
「そういえば、お前はボクの家族だったな」
背中を撫でる手つきと、その声音がどこか夢心地のように響くのは、多分気のせいではないだろう。
適度に暖かい、そんな日の午後の話。
家の扉を蹴破るようにして足蹴にすると、湿気を含んだ空気が纏わりつくかのような肌触りで出迎える。
キスイは雨に濡れそぼったまま、腕の中の箱を見やった。三匹の猫が、箱の中でじたばたしている。その様子に目を細めて、そしてその足でタオルを取りに行った。
自身の頭をガシガシとタオルで拭いて、そして猫たちの身体を拭いてやるが……拭う傍から、タオルは泥やら何やらで汚れていく。
……まずは風呂か。
ついでに自分も入ってしまおう、とキスイは雨で冷え切った肩をぶるりと震わせた。
丁度いい程度にお湯が出来たので、少し水を足しながら温度を調節しつつ猫たちを湯桶につける。
まずは茶トラの猫をゆっくりとぬるま湯で流していく。色が色だから汚れは目だたなかったが、相当に汚れていたらしく湯にどんどん泥が出てくる。
生き物を扱うのはあまり慣れていないので怖々としたものだったが、三匹目の白い猫にかかる頃には既に遠慮などは無くなっていた。
三匹を洗い終えてからキスイは三匹をタオルで拭き、大体乾いたのを確認すると脱衣所に閉め出した。
……いい加減温まらないと、キスイの方が風邪をひいてしまうから。
三匹との生活はなかなか面白かった。
元は飼い猫だったのであろう、人に慣れていたので容赦なく爪を立てるということはしなかったし、市場で買ってきた猫じゃらしの玩具やボールにじゃれて遊んでいる。
ちなみに、三匹の名前はもう決まっていた。
自分が母に貰った名前のように、瞳の色から名付けようと思ったのだ。
ちなみに茶トラは黄色、白の片割れも黄色、白のもう片割れは青の瞳だ。
聡明な子猫たちは、もう自分の名前を覚えている。キスイは微笑んで、名前を呼んでみた。
「コオウ」
猫じゃらしにじゃれていた茶トラがピクリと反応してこちらを見た。「コ」は虎、「オウ」は黄色のことらしい。
「ハクオウ」
屋根の梁に上っていた白の黄瞳の猫がこちらを一瞥したかと思うとひょいっと梁から飛び降りた。「ハク」は白のことらしい。
「シロガネ」
ボールにじゃれていた白の青瞳の猫がにゃあ、と鳴いた。「シロガネ」は白銀のことを言うらしい。シロガネの青の瞳は薄い色で、時折銀色に見える時があるから、白銀。
まさか猫の名前をつけるのに冒険者に開放されている楓華の文献を読み漁っていたとは誰も思うまい。
コオウとハクオウとシロガネ。
ネーミングセンスには自信がないが、気に入ってはいる。
家族が増えるとはやはりいいものだ。
家が、少し暖かくなった気がするから。
キスイは、あることで悩んでいた。
洋服箪笥を開ければ、色とりどりの女性用の服。ほんの3か月前までにはここに男性用の礼服や何かが並んでいたものだが、今ではそれはすっかり様変わりして所謂『女の子のクローゼット』となっている。
ほんのり香る香水のような残り香にふ、と顔を緩ませてから洋服箪笥を閉めると、下段の引き出しからフリルのついたシャツと黒い細リボンとハーフパンツを出した。
細リボンを首元で結んで、ブローチで止めて。手櫛で軽くとかすと、素直な髪はすぐに元通りになった。
白いレースで飾り付けてある緑色のカチューシャと一体になったようなミニハットを被って、玄関に行く。
靴は、実はほんの少しこだわりがある。
足を露出させる時は、この編み上げのピンヒールブーツがお気に入りだ。
かつんかつんと踵を鳴らして、さて、と財布代わりの――風体はそんななのに、持っているものには興味が無いのか、普通によくあるような小さな麻袋を持って出て行った。
今日外出するのは、先日再会した家族のような友人のところ。
近々訪問すると言ってしていなかったので行くというのもあるのだが、明日の決戦ダイウルゴスでは結果次第で更に先延びしてしまうだろう。口約束は薄れるのが早い。故に、早く行こうと思った。
それとついでに、悩み事も聞いて、欲しかった。
友人は確か、チョコの菓子が好きな人だった。旦那さんもそれに同じくチョコ好きで、同盟の街にあるチョコ菓子の類はほとんどあの家にあると言っても過言ではなかろう。毎日、鼻血が出るんじゃないかと思う程に食べさせられた。チョコと鼻血は、別に因果関係があるわけではないのだそうだけれど。
幾つか店を回って、今日発売したばかりだという豪奢なデコレーションがしてあるチョコレートのカップケーキを三つ、箱に包んでもらった。主人曰く、自信作だそうだ。なのでキスイもちょっと食べたくなったので、三つ。
街を歩くと様々な人々とすれ違う。
一瞬タロスと見紛うかのような全身鎧を着込んだ人、ほとんど裸体に近いような服を着ている人、どこかの民族のような服を着ている人。……ふわりと、女性らしい格好をした、綺麗な人。
人種は正に多種多様ではあったが、年頃の少女や女性は着飾っていることが多かった。
それが、最近の悩みの種。
じくりと胸を侵食していきそうな想いのそれを押さえつけるかのように胸を押さえつけてから、キスイは友人の家へと足を早めた。
扉をノックすると、誰のものかは知らないが「はーい」と聞こえる。入っていいのだと解釈して扉を開けると、友人の旦那さんがナイフを片手に何故か金庫を机の上に上げて錠前を壊そうとしていた。何をしているんだろうと暫し呆然としていたが、キスイの姿を目視した旦那さんは「キッ……!」と声を上げてから――いつの間にか手前にずれ込んできていた落ちてきた金庫に足を殴打し、悶絶した。
「……だ、大丈夫?」
「……う、ん……へ、へーき……」
嘘だ。明らかに涙声だ。
「キスイちゃん、おかえりなさい」
瞳に涙を浮かべても尚、そんなことを言ってくれる友人の旦那さんに、キスイは柔らかに微笑んで「ただいま」と告げた。
奥の方から、女性の声がする。
「クラウドー、金庫開いたぁ?」
ぱたぱたとこちらに駆け寄ってくる女性、否、友人にもぺこりと会釈をする。友人は少しばかり驚いた表情をしていたが、少しの間の後にやはり「おかえり」と告げてくれた。
キスイが笑って先程買ってきたケーキの入った箱を女性に渡すと、女性は少し首を傾げてから箱を受け取り、中身を見て――感動の悲鳴を上げた。
「やだぁ! 何これ! 今日発売の濃厚デコレーションチョコケーキじゃない! やだぁ、私食べたいのに今日家にいる予定だったから食べれないって思ってたのよねぇ、偉いわキスイ!」
「えっと、手ぶらも何かと思ったから買ってきたんだけど……喜んで貰えて、良かった」
そのまま金庫は放置され、座って座ってと促され、キスイは友人と旦那さんと一緒に食卓についた。
確かにその菓子は美味だった。キスイには少し苦い気はしたけれど、それを告げると「これが大人の味ってやつよ」と笑われて、上の方の甘い砂糖細工のところを分けてくれた。
暫くケーキをつついて、キスイは顔を上げると二人をじっと見る。
「……どうしたのぉ? キスイ」
「その、悩みがあって。……聞いて、欲しくて」
「おう、俺達が聞いていい悩みならどんどん相談しろ!」
その言葉を受けてほっとして、キスイはぽつりぽつりと言葉を紡ぎ始めた。
男装の理由から始まって、
頑なな心が良き友人達に巡り合えたことで解れていき、
好きな人ができて、
付き合うことになって、
そうしたら、女の子の格好がしたくてたまらなくなって。
「正直、自分でも振れ幅が大きすぎる気がするんだ。ボクがボクで無くなるような……今思えば、脆いアイデンティティだったのかもしれないけれど……って、クラウド?」
「キスっ……キスイに彼氏っ……ぐぅ、しょ、紹介しろぉぉぉ!」
「え、ちょ……?」
「はぁーいはいクラウド。ハウス! しょーがないのよキスイ。この人あんたの父親代わりのつもりだから、複雑な義父心ってやつでしょぉ」
「……なら、いいのだけれど」
机に突っ伏して終いには泣き出す彼に、友人が先日会った折に彼がキスイを思い出して泣いていたという話が満更嘘に思えなくなって笑えなくなってしまった。
友人が、フォークの尻で旦那の後頭部を刺すと演技ではあろうが彼はぱたりと動かなくなる。
この夫婦の力関係は圧倒的に友人の方が強く、暴走した旦那に少しだけ友人が水を差すだけで旦那は大人しくなる。先程のハウスではないが、忠犬のようだ。
友人はフォークを振りながら、先程の悩みに話を戻す。
「で、キスイはその振れ幅が怖いわけねぇ? でも、女の子の格好をするのには抵抗は無かったんでしょう?」
「ん……その、好きな人に、可愛いって言ってもらえたら嬉しいな、って思って」
「……ベタ惚れじゃない。いいじゃない、それで。人って変わるものよ? 特に、好きなことに関しては、ね」
ちらりと旦那さんを見る友人の目に、何かしら感情が浮かんだ気がした。
「……いいのかな」
まだ納得はしきれないが、それでもこの胸の内には何かが宿ったような気がする。
「それにね、若い内は色々、それこそ没頭するまでのめり込んだ方がいいわよ。年取ったら出来ないことって、存外あるから」
こくりと頷いて、苦かったスポンジの部分を分けて友人のカップに移すと、やはりフォークの尻で頭を刺された。
「そういえば、この金庫どうしようとしてたんだ?」
「ああ、何が入ってるんだかわかんないんだけどね、鍵がかけてあって。クラウドに力任せで開けて貰おうと思ったんだけど駄目だったの」
その言葉を聞いて、キスイは傍らに落ちていたナイフを手に取り鍵を切る。少々金庫まで傷つけてしまったが、これは仕方ないだろう。
さすが冒険者、という友人の言葉をさらりと無視して金庫を開けると、中から紙の束が出てきた。
それを見て、友人は「あー」と声を上げる。
「それ、キスイちゃんが冒険者になるって言って家を出て行った日に旦那が仕舞った写生だわぁ! こんなとこにあったのねぇ」
そういえば、旦那さんはいつもにこにこしながら写生をしていた記憶がある。
一枚一枚めくっていくと、そこにはキスイの肖像もあった。――ただし、瞳は酷く濁っていたけれど。
「変わらないものなんて、無いのよ」
友人の言葉に、こくりと頷く。
物凄く久し振りの涙を必至で堪えるために、声は出せなかった。
……眠れなかった。
キスイはくあ、と眠気から来るのではない欠伸をしてから、ベッドから降りた。
麻布を簡単に縫い合わせて作った家履き――キスイはどうも、家の中で歩きまわるのに普通の靴では違和感がある――を履いてからキッチンへ向かうと、さて朝食は何を食べようかと積んである食糧を前に考え込んでいた。
以前集落に暮らしていた時は次にいつ食べられるかわからなかったので、今思えば青ざめる程に食べ物を詰めていたのだが、冒険者になる前の暫くの生活で街に暮らす人の一般的な生活スタイル、というものがわかったような気がする。
寝巻きのローブの袖を捲って、火を起こす。
煌々と煌めく炎の上にフライパンを置いて暫く熱した後、バターを入れて溶きほぐした卵を入れるとじゅわっという音と共にいい匂いがした。
適当に塩胡椒で味付けをしたスクランブルエッグと、パン、山羊乳を食卓に並べてから、キスイは誰もいない空間で一人「いただきます」と手を合わせた。
朝食を終えると、買いだしに出かけた。
肉は腐りやすいため少量しか買わないので、こまめな買い出しが必要で少し面倒臭い。
もそもそとTシャツの上から厚手の前開きパーカーを羽織り、ハーフパンツと編み上げブーツを履く。以上でキスイの外出スタイルは完成してしまうので、それに気がついたキスイは複雑な気持ちで苦笑した。
買い出しが終わると、太陽が燦々と照っていて瞼が重くなる。
眠れるだろうか、と少し行儀の悪い気はしたが、外出着のままベッドに寝転がってみる。だが瞼が重いのは変わらずとも、眠気はいつまで経ってもやってこない。
瞼を擦って一度伸びをしてから、いつもの服に着替えると、キスイは家から出ていった。
街の外れの高台にある館の門をくぐると、館の主人とあいさつを交わす。
『ただいま』と『おかえり』を。
3Fの隅で、クッションに包まれながら、キスイはようやく瞼を閉じる。
その時ふと、亡き母上の言葉が頭を過ぎった。
――獣はね、安心できる場所でしか眠らないのよ。襲われないとも限らないから。
何故それを思い出したのかを考える間も無く、キスイは夢の中へと意識を沈めていた。
いきなり馬鹿呼ばわりされて、キスイは面食らう。
今日は、先日……あれはもう立派な恋愛相談だろう、開き直ることにした……をした友人に、無事その人と付き合うことになったと報告しにきたのだ。彼女のおかげで自身の不可解な気持ちが恋心なのだと認識できたのだから、彼女に礼を言わないと、と思っていたのだ。だが、飛んできたのは怒号。
聞くと、彼女はまだ告白を躊躇っているらしかった。
言わないのか? と首を傾げたキスイに、彼女は「やっぱりキスイちゃんは乙女心がない」とふてくされた。乙女心は確かに身に付いてる自信はないが、それでも成就しそうな恋が目の前でくすぶっているのは少し気になる。
そこまで考えて、はたと気がつく。
そういえば以前はそんなことなんて考えもしなかった。やはり影響は知らず知らずのうちに出ているのだろうか、想い人の顔を頭に思い浮かべると急に恥ずかしくなった。
百面相をしていたキスイをじっと見ていた彼女は、先ほどの怒り方が嘘のようににんまりとしながら身を乗り出す。
「ねぇねぇ、もうキスはしたの?」
その言葉に、キスイは盛大にむせた。
いきなり何事かと視線をやると、彼女は楽しそうに笑っている。
「だって、この間『最初にキスした人が王子様』なんて言ってたんだもの。気になるじゃない」
そんなことを言っただろうか。言ったとしても、今思えば恥ずかしい台詞だ。初心を通り越して馬鹿なんじゃないか、と自身をなじりたい気分になる。
……まぁ、その幻想は確かに未だに捨てきってはいないのが恥ずかしいところなのだが。
「ボクは、別に急いで恋をしているわけじゃないし……個人のペースでいいんじゃないかな、そういうのは」
苦笑しながら言うと、彼女の目が丸くなる。
そして、いつだったか彼女に言われた台詞を、再度言われた。ただし、続く言葉は正反対だったけれども。
「キスイちゃん、変わったね……なんていうか、女の子みたい」
「……キミはボクの性別を何だと思ってたんだ?」
「キスイちゃんって性別」
なんだそれは、と笑うと、彼女は急に優しげな笑みを浮かべてキスイの頬を手のひらで覆う。彼女の肩に乗っていた髪の毛がさらさらと垂れて、それがひどく美しいと思った。
「私たちの集落を守ってくれた、男の子みたいな無理してる女の子。女の子じゃいけないってずっと自分のこと責めてた、女の子」
「それは……」
「でも今は、恋したり、甘いものすごく美味しそうに食べる、普通の女の子。……いい加減、男装やめたら?」
習慣はどうしようもないよ、と苦笑してから……キスイは彼女の肩に、頭を預ける。
すっかり春の香りのする風が心地よくて、このまま身を任せれば眠ってしまいそうだ。
「ボク、変われたかなぁ」
うん、と小さく頷く彼女に少しだけ笑みを浮かべてから、キスイは瞳を閉じる。
おめでとうキスイちゃん、と小さく呟かれたような気がして、ついでに晴れているのに彼女の顔の下の芝生に雫が光っているような気がしたが……胸いっぱいのむずがゆいような想いと、春の風が眠気を誘って、彼女の顔を満足に見ることはできなかった。
夢と現実の境目で、キスイはやけに幸福感に満ちていたことだけははっきりと覚えていた。