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TW1(無限のファンタジア)に生きるキスイ・キョウメイ(a76517)の雑記だったり呟きだったりメモ帳だったり
2025/02
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「かあさん」
 幼い声に起こされて、女性はうっすらと瞳を開く。その瞳の焦点が少女を捕えると、目線ははっきりと少女に注がれた。女性は少女の頭を撫でて、慈しむかのように名前を呼ぶ。
「キスイ。……怖い夢でも、見た?」
 こくりと頷く少女の頬に涙の跡を見てとって、だがしかし夢の内容を聞くような真似はしない。
 娘である少女は、いつも同じ夢に苦しまされている。自分たち、奉仕種族が生贄として大神ザウスの名のもと捧げ殺される夢。少女は、仲の良かった年上の女性をそうやって捧げられてから毎日のように同じ夢を見ているのだ。
 無言で抱きよせると、少女も何も言わずに腕の中に収まる。ひく、としゃくりあげる喉を落ちつかせるように背中を撫でてやると、やがて嗚咽は大人しいものへと変わっていった。
「かあさん、お話……また、何かお話、聞かせて」
 少女がぐずると母の話をせがむのは最早癖のようなものだ。
 おかげで、少女は奉仕種族にしては文字の読み書きは劣悪環境にあるとは思えないほどに発達している。多分、身近な奉仕種族の大人よりも下手したらできるかもしれない。それも一般より下レベルなのだけれど、女性はただ単純に娘の発達が喜ばしかった。
「そうねぇ、じゃあ、キスイのお話でもしようか?」
「わたしの、お話?」
 少女が首を傾げると、その潤んだ瞳が光を別の角度から反射して黄色く見えた。
「キスイの瞳は、灰色でしょう? でもその瞳は、本当は七色になるのよ」
「……かあさんって、嘘つきなのね」
「本当よ。ほら、今は黄色に見える。さっきは緑色だったわ」
 微笑んで告げると、少女はぱちくりとその瞼を忙しなく瞬きした。直後、何か身の回りに姿を映せるものはないかと探したが結局見つからず、少女は母の胸に懐いてほんとう? と問う。女性は肯定の言葉を発して、しかしやはり少女は信じず、「嘘つき」と笑った。
「ずっとね」
 女性が言葉を発するのを、少女はただ静かに聞いていた。
「ずっと、名前が決められなくて。でもね、貴女の目が見えるようになった時、本当は灰色だったのに……何故か、私には煌めいた緑色に見えたの。不思議ね、昨日のことのように思い出せるわ」
「だから、キスイ?」
「そう、私の名前……緑って意味の、スイって名前を絶対入れようって思った。そうしたら、『絶対この子はキスイって名前!』……って思ったのよ」
 女性が微笑むのに対して、少女は少し恥ずかしいのだろう、居住いを正してから女性に言葉を告げる。
「……わたしは、かあさんに祝福されて生まれたのね」
「そうよ、大好きな私の娘だもの」
 その言葉に、少女は破顔して笑った。


 その2日後だっただろうか、列強種族から逃げる計画が、奉仕種族の女性陣の中で立案されたのは。
 その時、キスイは絶対に母と一緒に逃げて、幸せな生活を送ろうと思っていた。


 結局は叶わなかった夢だけれど。
 母の言う『不思議なこと』と同じように、あの夜のことはキスイも昨日のことのように思い出せる。

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