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TW1(無限のファンタジア)に生きるキスイ・キョウメイ(a76517)の雑記だったり呟きだったりメモ帳だったり
2025/02
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 あの時一緒に、列強種族から逃げだそうとした半数は捕えられ、殺された。
 あの暖かい腕で抱いてくれた、母上も。
 柔らかな腕にトロウルの冒険者の屈強な腕が食いこみ、瞬間その場所の骨が折れたことが知れる。悲鳴と共にあの腕がボクを突き飛ばして、ボクは幼くして共に苦渋を舐めた大柄な友人の腕に収まる。

『かあさんっ……やだぁ、かあさん!』
『今は見ちゃ駄目よキスイ! 逃げることだけ考えて!』
『わたっ……わたしが、かあさん助けなきゃ!』
『冒険者に奉仕種族が敵うと思ってるの! また生贄として捕まるわよ!』

 言葉だけが脳裏を反芻して、やがてその双眸はゆっくりと開かれた。
 見上げるはテントの天井。嫌な夢を見た、と一人天井を睨んでいると、にわかに集落が騒がしくなったのが聞こえた。
 集落と言っても20人程度の、奉仕種族の集まりだ。絞り尽くされるものはとうに絞り尽くされたというのに、何故野盗はこんな場所を狙うのだろう。予程見る目が無いのか、生活に困っているのか。
 悲鳴が聞こえて、慌ててテントの入口から外を窺うと一人の仲間が明らかに野盗と思しき集団に振り払われ、地面に膝をついていた。
「なんだなんだぁ? ここはぁ? 女子供しかいねぇじゃねぇか!」
「そっちの方が好都合じゃねぇの、食って殺して金取っておしまいでしょう。いっつも」
「そりゃあそうだ。おい女」
 野盗のリーダーと思しき男が先程振り払った女性に剣の矛先を向ける。
「最初はおま……」
 いいかけたと共に、その野盗の脇腹に剣先が食いこんだ。
 テントから奉仕種族であるとは思えないスピードで、脇に大ぶりのナイフを抱えたキスイの体当たりの一突きだった。
 リーダーの突然の襲撃に仲間達が一斉に武器を手にするが、その行く手をやはり武器を携えた集落の女性数人が塞ぐ。
 一方ナイフで野盗のリーダーを突いたキスイは、傷口を広げるようにしてナイフを捻る。苦痛の表情と共にキスイを見降ろした野盗は、自身を傷つけた人物が子供だと悟り激昂する。
「この、ガキがぁぁぁ!」
 地面に叩きつけられた剣を紙一重でかわし、キスイは手直にあった木材を持って野盗の背後に回ると足場を蹴ってそのまま後頭部を得物の勢いのままに振りおろした。
 野盗は脳震盪でも起こしたのだろう、地面に伏せる。その頭を、キスイはぐっと踏みつける。まるで、地面に擦り付けるように。
「去れ。さもなくば、殺されても文句は言うまい?」
 子供とは思えない冷徹な声がその身体から絞り出され、またリーダーの姿を目視した野盗の集団は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。ここに残った野盗は、リーダーの彼一人。
 が、その残り一人でさえもキスイは躊躇いなく脇腹から抜いたナイフで喉を切り裂き、殺した。
 生き残るためには、襲われたからには応戦しなければならない。そして、その遺品で暫くの生活を潤おす。それが、この集落の生活サイクル。

 遺体から遺品を奪うだけ奪った頃合いに、一人の女性が濡れた布を持ってキスイに駆け寄ってきた。
「キスイちゃん、あんまり無理しちゃ駄目よ?」
 そう言いながらキスイの返り血を拭うのは、あの日キスイを抱き止めた友人だ。
「……でも、皆の命は……母上が命をかけて遺してくれたものだから、ボクに守る責任があるよ」
 そう微笑んで言うと、友人は痛ましいような顔をした。
 そしてそのまま、抱き締めてくれる。その体温は年齢こそ違えど、母上のもののようで安心した。
「キスイちゃん、変わっちゃったよ。お母さん殺された日から、変わっちゃった。急に言葉遣いも服装も男の子みたいになっちゃったし……」
「だって、小さくても男がいるってだけで違うだろう?」
「……馬鹿!」
 そう言いながらも抱きしめてくれる彼女の体温は、やはり、暖かい。

 そして、ボク達が奉仕種族として働いていた列強種族、トロウルが『同盟』の冒険者によって殲滅させられたと知ったのは……随分と、後の話だった。

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