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家の扉を蹴破るようにして足蹴にすると、湿気を含んだ空気が纏わりつくかのような肌触りで出迎える。
キスイは雨に濡れそぼったまま、腕の中の箱を見やった。三匹の猫が、箱の中でじたばたしている。その様子に目を細めて、そしてその足でタオルを取りに行った。
自身の頭をガシガシとタオルで拭いて、そして猫たちの身体を拭いてやるが……拭う傍から、タオルは泥やら何やらで汚れていく。
……まずは風呂か。
ついでに自分も入ってしまおう、とキスイは雨で冷え切った肩をぶるりと震わせた。
丁度いい程度にお湯が出来たので、少し水を足しながら温度を調節しつつ猫たちを湯桶につける。
まずは茶トラの猫をゆっくりとぬるま湯で流していく。色が色だから汚れは目だたなかったが、相当に汚れていたらしく湯にどんどん泥が出てくる。
生き物を扱うのはあまり慣れていないので怖々としたものだったが、三匹目の白い猫にかかる頃には既に遠慮などは無くなっていた。
三匹を洗い終えてからキスイは三匹をタオルで拭き、大体乾いたのを確認すると脱衣所に閉め出した。
……いい加減温まらないと、キスイの方が風邪をひいてしまうから。
三匹との生活はなかなか面白かった。
元は飼い猫だったのであろう、人に慣れていたので容赦なく爪を立てるということはしなかったし、市場で買ってきた猫じゃらしの玩具やボールにじゃれて遊んでいる。
ちなみに、三匹の名前はもう決まっていた。
自分が母に貰った名前のように、瞳の色から名付けようと思ったのだ。
ちなみに茶トラは黄色、白の片割れも黄色、白のもう片割れは青の瞳だ。
聡明な子猫たちは、もう自分の名前を覚えている。キスイは微笑んで、名前を呼んでみた。
「コオウ」
猫じゃらしにじゃれていた茶トラがピクリと反応してこちらを見た。「コ」は虎、「オウ」は黄色のことらしい。
「ハクオウ」
屋根の梁に上っていた白の黄瞳の猫がこちらを一瞥したかと思うとひょいっと梁から飛び降りた。「ハク」は白のことらしい。
「シロガネ」
ボールにじゃれていた白の青瞳の猫がにゃあ、と鳴いた。「シロガネ」は白銀のことを言うらしい。シロガネの青の瞳は薄い色で、時折銀色に見える時があるから、白銀。
まさか猫の名前をつけるのに冒険者に開放されている楓華の文献を読み漁っていたとは誰も思うまい。
コオウとハクオウとシロガネ。
ネーミングセンスには自信がないが、気に入ってはいる。
家族が増えるとはやはりいいものだ。
家が、少し暖かくなった気がするから。