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TW1(無限のファンタジア)に生きるキスイ・キョウメイ(a76517)の雑記だったり呟きだったりメモ帳だったり
2025/02
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 キスイは、あることで悩んでいた。
 洋服箪笥を開ければ、色とりどりの女性用の服。ほんの3か月前までにはここに男性用の礼服や何かが並んでいたものだが、今ではそれはすっかり様変わりして所謂『女の子のクローゼット』となっている。
 ほんのり香る香水のような残り香にふ、と顔を緩ませてから洋服箪笥を閉めると、下段の引き出しからフリルのついたシャツと黒い細リボンとハーフパンツを出した。
 細リボンを首元で結んで、ブローチで止めて。手櫛で軽くとかすと、素直な髪はすぐに元通りになった。
 白いレースで飾り付けてある緑色のカチューシャと一体になったようなミニハットを被って、玄関に行く。
 靴は、実はほんの少しこだわりがある。
 足を露出させる時は、この編み上げのピンヒールブーツがお気に入りだ。
 かつんかつんと踵を鳴らして、さて、と財布代わりの――風体はそんななのに、持っているものには興味が無いのか、普通によくあるような小さな麻袋を持って出て行った。

 今日外出するのは、先日再会した家族のような友人のところ。
 近々訪問すると言ってしていなかったので行くというのもあるのだが、明日の決戦ダイウルゴスでは結果次第で更に先延びしてしまうだろう。口約束は薄れるのが早い。故に、早く行こうと思った。
 それとついでに、悩み事も聞いて、欲しかった。
 友人は確か、チョコの菓子が好きな人だった。旦那さんもそれに同じくチョコ好きで、同盟の街にあるチョコ菓子の類はほとんどあの家にあると言っても過言ではなかろう。毎日、鼻血が出るんじゃないかと思う程に食べさせられた。チョコと鼻血は、別に因果関係があるわけではないのだそうだけれど。
 幾つか店を回って、今日発売したばかりだという豪奢なデコレーションがしてあるチョコレートのカップケーキを三つ、箱に包んでもらった。主人曰く、自信作だそうだ。なのでキスイもちょっと食べたくなったので、三つ。
 街を歩くと様々な人々とすれ違う。
 一瞬タロスと見紛うかのような全身鎧を着込んだ人、ほとんど裸体に近いような服を着ている人、どこかの民族のような服を着ている人。……ふわりと、女性らしい格好をした、綺麗な人。
 人種は正に多種多様ではあったが、年頃の少女や女性は着飾っていることが多かった。
 それが、最近の悩みの種。
 じくりと胸を侵食していきそうな想いのそれを押さえつけるかのように胸を押さえつけてから、キスイは友人の家へと足を早めた。

 扉をノックすると、誰のものかは知らないが「はーい」と聞こえる。入っていいのだと解釈して扉を開けると、友人の旦那さんがナイフを片手に何故か金庫を机の上に上げて錠前を壊そうとしていた。何をしているんだろうと暫し呆然としていたが、キスイの姿を目視した旦那さんは「キッ……!」と声を上げてから――いつの間にか手前にずれ込んできていた落ちてきた金庫に足を殴打し、悶絶した。
「……だ、大丈夫?」
「……う、ん……へ、へーき……」
 嘘だ。明らかに涙声だ。
「キスイちゃん、おかえりなさい」
 瞳に涙を浮かべても尚、そんなことを言ってくれる友人の旦那さんに、キスイは柔らかに微笑んで「ただいま」と告げた。
 奥の方から、女性の声がする。
「クラウドー、金庫開いたぁ?」
 ぱたぱたとこちらに駆け寄ってくる女性、否、友人にもぺこりと会釈をする。友人は少しばかり驚いた表情をしていたが、少しの間の後にやはり「おかえり」と告げてくれた。
 キスイが笑って先程買ってきたケーキの入った箱を女性に渡すと、女性は少し首を傾げてから箱を受け取り、中身を見て――感動の悲鳴を上げた。
「やだぁ! 何これ! 今日発売の濃厚デコレーションチョコケーキじゃない! やだぁ、私食べたいのに今日家にいる予定だったから食べれないって思ってたのよねぇ、偉いわキスイ!」
「えっと、手ぶらも何かと思ったから買ってきたんだけど……喜んで貰えて、良かった」
 そのまま金庫は放置され、座って座ってと促され、キスイは友人と旦那さんと一緒に食卓についた。

 確かにその菓子は美味だった。キスイには少し苦い気はしたけれど、それを告げると「これが大人の味ってやつよ」と笑われて、上の方の甘い砂糖細工のところを分けてくれた。
 暫くケーキをつついて、キスイは顔を上げると二人をじっと見る。
「……どうしたのぉ? キスイ」
「その、悩みがあって。……聞いて、欲しくて」
「おう、俺達が聞いていい悩みならどんどん相談しろ!」
 その言葉を受けてほっとして、キスイはぽつりぽつりと言葉を紡ぎ始めた。
 男装の理由から始まって、
 頑なな心が良き友人達に巡り合えたことで解れていき、
 好きな人ができて、
 付き合うことになって、
 そうしたら、女の子の格好がしたくてたまらなくなって。
「正直、自分でも振れ幅が大きすぎる気がするんだ。ボクがボクで無くなるような……今思えば、脆いアイデンティティだったのかもしれないけれど……って、クラウド?」
「キスっ……キスイに彼氏っ……ぐぅ、しょ、紹介しろぉぉぉ!」
「え、ちょ……?」
「はぁーいはいクラウド。ハウス! しょーがないのよキスイ。この人あんたの父親代わりのつもりだから、複雑な義父心ってやつでしょぉ」
「……なら、いいのだけれど」
 机に突っ伏して終いには泣き出す彼に、友人が先日会った折に彼がキスイを思い出して泣いていたという話が満更嘘に思えなくなって笑えなくなってしまった。
 友人が、フォークの尻で旦那の後頭部を刺すと演技ではあろうが彼はぱたりと動かなくなる。
 この夫婦の力関係は圧倒的に友人の方が強く、暴走した旦那に少しだけ友人が水を差すだけで旦那は大人しくなる。先程のハウスではないが、忠犬のようだ。
 友人はフォークを振りながら、先程の悩みに話を戻す。
「で、キスイはその振れ幅が怖いわけねぇ? でも、女の子の格好をするのには抵抗は無かったんでしょう?」
「ん……その、好きな人に、可愛いって言ってもらえたら嬉しいな、って思って」
「……ベタ惚れじゃない。いいじゃない、それで。人って変わるものよ? 特に、好きなことに関しては、ね」
 ちらりと旦那さんを見る友人の目に、何かしら感情が浮かんだ気がした。
「……いいのかな」
 まだ納得はしきれないが、それでもこの胸の内には何かが宿ったような気がする。
「それにね、若い内は色々、それこそ没頭するまでのめり込んだ方がいいわよ。年取ったら出来ないことって、存外あるから」
 こくりと頷いて、苦かったスポンジの部分を分けて友人のカップに移すと、やはりフォークの尻で頭を刺された。

「そういえば、この金庫どうしようとしてたんだ?」
「ああ、何が入ってるんだかわかんないんだけどね、鍵がかけてあって。クラウドに力任せで開けて貰おうと思ったんだけど駄目だったの」
 その言葉を聞いて、キスイは傍らに落ちていたナイフを手に取り鍵を切る。少々金庫まで傷つけてしまったが、これは仕方ないだろう。
 さすが冒険者、という友人の言葉をさらりと無視して金庫を開けると、中から紙の束が出てきた。
 それを見て、友人は「あー」と声を上げる。
「それ、キスイちゃんが冒険者になるって言って家を出て行った日に旦那が仕舞った写生だわぁ! こんなとこにあったのねぇ」
 そういえば、旦那さんはいつもにこにこしながら写生をしていた記憶がある。
 一枚一枚めくっていくと、そこにはキスイの肖像もあった。――ただし、瞳は酷く濁っていたけれど。
「変わらないものなんて、無いのよ」
 友人の言葉に、こくりと頷く。
 物凄く久し振りの涙を必至で堪えるために、声は出せなかった。

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