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TW1(無限のファンタジア)に生きるキスイ・キョウメイ(a76517)の雑記だったり呟きだったりメモ帳だったり
2025/02
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日記を、一人でつけていいと言われた。
今までは数人で共同だったんだが、嬉しい反面、少し持て余してしまうな。
SSは、過去のボクの『かてごり』のものを引っ張ってきたそうだ。
……何を書けばいいのか、正直わからないが。
とりあえず、呟きの場として、ここに独立したことを祝って、乾杯……(空にカップを掲げ)
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 愛を伝えることができればいいと言った彼女に、キスイははて、と首を傾げた。
 さらさらと流れる小川。春の息吹が大地の花に命を吹き込みながらも、どこか寒そうに見えるのは気のせいだろうか。吹きつける風はまだほんの少しの冷たさを残しつつ首筋をくすぐり、キスイは首を竦める。
「好きなら、好きと言えばいいだろう?」
 疑問を口に出したキスイの口を、彼女はしっ! と言って手で塞いだ。
 その頬は林檎のように真っ赤で、どこか昔より大人びたような気がする。かつて友人だった……いや、今も交流はあるのだが、昔程べったりというわけにもいかなくなった彼女が少し遠くに行ってしまったように感じて、目を細める。
 彼女はその真っ赤な頬を膨らませて、言う。
「キスイちゃんは恋を知らないからそんなことが言えるのよ」
「知ってる、それくらい」
 つい売り言葉に買い言葉で反応してしまうと、「じゃあ言ってみてよ」と言われて言葉に詰まる。
 恋という概念は知っている。自分以外の他人を好きになること。だが、それはあまりにもキスイの生活からは遠すぎて、上手く言葉に出来ない。
 恋をしている人達は知っているが、他人から見れば幼いのであろう自分の前では、その者達の接触は親愛以上のものには見えなくて、キスイはついつい子供のようなことを口にしてしまう。
「……御伽噺では、お姫さまに最初にキスした人が、最後に結ばれる」
 今度は、彼女がぽかんとする番だった。
 直後、爆笑されてしまい、キスイは失言だったと思いつつも顔を赤らめてうるさい、と怒鳴る。
 結局、耳年増なだけで何も知らない自分に恥ずかしくなりながらも、それ以上を知らないのだから本当に仕方が無い。それに、ランララの日に見かけたカップル達は皆物語に出てくるような美男美女ばかりで、本当にお姫さまなんじゃないかと思ったのだ。
 彼女はまだひくついている腹を抑えて、キスイに問う。
「ねぇ、同盟の冒険者の人達って、すごく綺麗だったりカッコよかったりする人多いじゃない。誰か気になる人、いないの?」
「それは……外見をカッコいいとか美しいと思う時はあるが、ボクはそれよりも……えと、だから」
 彼女はキスイの弱点である頭を撫でてきて、ん? と小首を傾げた。本当に、昔から頭を触られるのは弱いのだ。みるみるうちに羞恥で顔が赤くなってきてしまって、唇が震えて言葉が紡げなくなる。
 震える唇で告げる言葉には、本当に力が籠っていなかった。
「……だから、ボクみたいな子供は、相手にしてもらえないって……」
 言った途端、胸に何かが突き刺さったような気がした。ほんの少しの、針のような、棘のような痛みが。
(あれ?)
 途端、何故かほろりと雫が頬を伝った。
 彼女はそれを見ると、自分が頭を撫でたことでキスイが堪え切れなくなって涙を流したと思ったのだろう。ごめんね、と謝りながら肩を撫で擦ってくれる。
 だがそれに俯きながら、キスイは何故自分がいきなり泣いたのかわからなかった。


 風がいきなり、横薙ぎに吹いてきて髪をさらう。
 キスイの短く切った髪の毛も、彼女の長い髪も風に捕らわれて、しかし頬に貼り付いた雫は吹き飛ばしてはくれない。
 それが何故か腹立たしくて、キスイは雫で重たい瞼をぎゅっと瞑った。
 また、頬に雫が流れた感触がした。

 あの時一緒に、列強種族から逃げだそうとした半数は捕えられ、殺された。
 あの暖かい腕で抱いてくれた、母上も。
 柔らかな腕にトロウルの冒険者の屈強な腕が食いこみ、瞬間その場所の骨が折れたことが知れる。悲鳴と共にあの腕がボクを突き飛ばして、ボクは幼くして共に苦渋を舐めた大柄な友人の腕に収まる。

『かあさんっ……やだぁ、かあさん!』
『今は見ちゃ駄目よキスイ! 逃げることだけ考えて!』
『わたっ……わたしが、かあさん助けなきゃ!』
『冒険者に奉仕種族が敵うと思ってるの! また生贄として捕まるわよ!』

 言葉だけが脳裏を反芻して、やがてその双眸はゆっくりと開かれた。
 見上げるはテントの天井。嫌な夢を見た、と一人天井を睨んでいると、にわかに集落が騒がしくなったのが聞こえた。
 集落と言っても20人程度の、奉仕種族の集まりだ。絞り尽くされるものはとうに絞り尽くされたというのに、何故野盗はこんな場所を狙うのだろう。予程見る目が無いのか、生活に困っているのか。
 悲鳴が聞こえて、慌ててテントの入口から外を窺うと一人の仲間が明らかに野盗と思しき集団に振り払われ、地面に膝をついていた。
「なんだなんだぁ? ここはぁ? 女子供しかいねぇじゃねぇか!」
「そっちの方が好都合じゃねぇの、食って殺して金取っておしまいでしょう。いっつも」
「そりゃあそうだ。おい女」
 野盗のリーダーと思しき男が先程振り払った女性に剣の矛先を向ける。
「最初はおま……」
 いいかけたと共に、その野盗の脇腹に剣先が食いこんだ。
 テントから奉仕種族であるとは思えないスピードで、脇に大ぶりのナイフを抱えたキスイの体当たりの一突きだった。
 リーダーの突然の襲撃に仲間達が一斉に武器を手にするが、その行く手をやはり武器を携えた集落の女性数人が塞ぐ。
 一方ナイフで野盗のリーダーを突いたキスイは、傷口を広げるようにしてナイフを捻る。苦痛の表情と共にキスイを見降ろした野盗は、自身を傷つけた人物が子供だと悟り激昂する。
「この、ガキがぁぁぁ!」
 地面に叩きつけられた剣を紙一重でかわし、キスイは手直にあった木材を持って野盗の背後に回ると足場を蹴ってそのまま後頭部を得物の勢いのままに振りおろした。
 野盗は脳震盪でも起こしたのだろう、地面に伏せる。その頭を、キスイはぐっと踏みつける。まるで、地面に擦り付けるように。
「去れ。さもなくば、殺されても文句は言うまい?」
 子供とは思えない冷徹な声がその身体から絞り出され、またリーダーの姿を目視した野盗の集団は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。ここに残った野盗は、リーダーの彼一人。
 が、その残り一人でさえもキスイは躊躇いなく脇腹から抜いたナイフで喉を切り裂き、殺した。
 生き残るためには、襲われたからには応戦しなければならない。そして、その遺品で暫くの生活を潤おす。それが、この集落の生活サイクル。

 遺体から遺品を奪うだけ奪った頃合いに、一人の女性が濡れた布を持ってキスイに駆け寄ってきた。
「キスイちゃん、あんまり無理しちゃ駄目よ?」
 そう言いながらキスイの返り血を拭うのは、あの日キスイを抱き止めた友人だ。
「……でも、皆の命は……母上が命をかけて遺してくれたものだから、ボクに守る責任があるよ」
 そう微笑んで言うと、友人は痛ましいような顔をした。
 そしてそのまま、抱き締めてくれる。その体温は年齢こそ違えど、母上のもののようで安心した。
「キスイちゃん、変わっちゃったよ。お母さん殺された日から、変わっちゃった。急に言葉遣いも服装も男の子みたいになっちゃったし……」
「だって、小さくても男がいるってだけで違うだろう?」
「……馬鹿!」
 そう言いながらも抱きしめてくれる彼女の体温は、やはり、暖かい。

 そして、ボク達が奉仕種族として働いていた列強種族、トロウルが『同盟』の冒険者によって殲滅させられたと知ったのは……随分と、後の話だった。

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